今年も夏祭りの季節になりました。
奄美大島では,この季節になると,八月踊りが集落ごとににぎやかに行われます。この踊りに欠かせないのが,夜空に響く「太鼓(チヂン)」と「サンシン」の軽快な音。
これらは,ともに県指定の伝統的工芸品です。
「太鼓(チヂン)」は,1年以上乾燥させたクスやセンダンの木と1週間ほど乾燥させた馬や山羊の皮が主な原料です。皮は毛が生えたまま使用し,クサビ締めをしているのが特徴で,側面のクサビを叩くことによって,皮を締めたり,ゆるめたりと音の調整をします。太鼓(チヂン)は,八月踊りの時など,片手で持って叩き続けるため,女性でも持てるようとても軽く仕上げています。
「サンシン」は,最近の島唄ブームにより,奄美大島に行ったことのない人もその音色を耳にしたことのあるのではないでしょうか。もともとは,沖縄から伝わったものですが,風土に合わせて少しずつ形が変化し,沖縄のものに比べ,形状が小さく,弦が細くなっていて,音色が高いのが特徴。
太鼓(チヂン)とサンシンの音を聞くと,奄美大島の美しい景色,島唄や八月踊の情景が自然に浮かんでくるようになります。
これらとは趣きが異り,静寂の中,張りのある勇壮な音を奏でる伝統的工芸品が「薩摩琵琶」。「薩摩琵琶」は,薩摩武士の文武奨励のために「琵琶歌」を楽器として普及したもので,明治維新以後,東京を中心に全国に広まり,男性的な楽器としてもてはやされました。
しばらく途絶えていた薩摩琵琶作りは,古武道の宗家をされていた塩田次郎さんの独学によって復活しました。現在でも薩摩琵琶を製作しているのは,塩田さん一人だけ。古い琵琶を解体したり,古い資料を掘り起こしたりと,すべてが手作業で,完成させるまでに多くの月日を費やしたそうです。
主要部分は,ほうのきや桜,ケヤキ,桑などの木を使いますが,3年程度,自然乾燥して,割れなかったものだけしか使えません。その他の部位には,象牙や黒檀等の材料も使い,また,バチは,つげの木を使います。
バチは,全長が20センチ以上と大きいうえに,バチに適した木目が通っていないと折れやすくなるなどの理由から,選定条件が厳しくなります。「薩摩琵琶」作りは,材料を確保するのに大変苦慮するとのこと。
また,糸巻きの製作やその取り付けの角度,位置等にも神経を使うと匠は話します。取り付け方で,弦の張り具合が変わり,音色にも影響するからです。
全体に漆を塗って仕上げますが,腹板に豪華な装飾をあしらった蒔絵琵琶や貝殻の細工をした螺鈿(らでん)琵琶も製作していて,美術品としても十分価値があります。アワビ貝やホタテ貝などを細かく削り,一つ一つ漆で丁寧に取り付けていく細かい作業。この装飾の作業だけでも3ヶ月以上費やすこともあります。薩摩琵琶は,気軽に買える価格ではありません。
しかし,全てが手作りで,手間がかかり,その上,高価で貴重な材料を使用することを考えると納得です。
この他,楽器としての伝統的工芸品に「伊集院の太鼓(てこ)」があります。
140年以上の歴史があり,郷土芸能の太鼓踊りや太鼓演奏用の太鼓,神社の祭典に使う宮太鼓など幅広く使われています。肥後の赤牛の皮が最も優れていて,いい音が出るそうです。
今年の11月8日〜11日の4日間,鹿児島アリーナで,全国の伝統的工芸品が一堂に揃う「全国伝統的工芸品フェスタ IN かごしま」が開催されます。210品目の国指定の伝統的工芸品(本県では,本場大島紬,川辺仏壇,薩摩焼)とともに,県指定の伝統的工芸品も展示・販売されます。
今回紹介している太鼓(チヂン),サンシン,薩摩琵琶,伊集院の太鼓(てこ)もありますので,伝統の音を奏でる楽器を実際に確かめてみてください。
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